季節のお荘厳

お香

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本願寺派(西本願寺)では、仏前にお香をお供えすることを「供香(ぐこう)」と云い、それには「焼香」と「燃香(ねんこう)」の2種類があります。「焼香」とはご存じの通り、沈香(じんこう)や五種香〈沈香、白檀、甘松(かんしょう)、丁子(ちょうじ)、桂皮(けいひ)などの香料を適宜にブレンドしたもの〉を 炭火で焚くことをいいます。「燃香」とは、常香盤(じょうこうばん)や土香炉に供香する事をいうのですが、その仕方は、灰の上に抹香(まっこう)とよばれる黄色で粉末状の香を、直線状もしくは渦巻き状に盛り、次第に燻らし、長時間にわたり供香する事をいいます。この供香の仕方は少々手間がかかりますので、それをお線香で代用しても差し支えないことになっておりまして、本願寺派ではお線香を立てず寝かせる理由は、これによるとされています。ちなみに、一般の土香炉ではお線香はそのまま寝かせることが出来ませんから適宜に折って供香するのですが、一説に『帰三宝偈』の御文「横超断四流」より、その折り方を4つと定めていたことがあったようですが、現在はそのような定めはありません。

『無量寿経』には、阿弥陀様のお香りとして「栴檀香(せんだんこう)」の名が見えます。四十八の願いを建てられた法蔵菩薩が兆載永劫(ちょうさいようこう)のご修行をされるなか、「口気は香潔にして、優鉢羅華(うはらけ)のごとし。身のもろもろの毛孔より栴檀香を出す。その香は、あまねく無量の世界に熏ず。」や、またそのご修行を成就された西方極楽世界には、「その池の岸の上に栴檀樹あり。華葉垂れ布きて、香気(こうけ)あまねく熏ず。」とあります。阿弥陀様の周りには「栴檀香」の香りが遍満しているというのです。さてさて、その「栴檀香」とはどのような香りなのでしょうか。東京国立博物館には、国の重要文化財として、飛鳥~奈良時代の「栴檀香」(長66.4 最大径13.0mm)が所蔵されているそうですが、当然その香を聞くことは出来ません。
『無量寿経』の法蔵菩薩ご修行の続きには「その香は、あまねく無量の世界に熏ず。 中略 その手よりつねに無尽の宝・衣服・飲食・珍妙の華香・繒蓋(ぞうがい)・幢幡(どうばん)、荘厳の具を出す。かくのごときらの事、もろもろの天人に超えたり。一切の法において自在を得たりきと。」と説かれており、阿弥陀様の「栴檀香」の香気は「あまねく無量の世界に熏ず」ですから、私の所まで届いているのです。そしてその香気は、「一切の法において自在を得たりき」ですから、この私がどのような者であっても、そのまま「自在」に救い取る働きを持っていると説かれているのでありました。

残念ながら東京国立博物館の「栴檀香」は聞くことが出来ませんが、阿弥陀様の「香気」はたやすく聞くことが出来ます。その香気がしっかり身に染められた方を親鸞聖人は『浄土和讃』に讃えておられます。

染香人のその身には 香気あるかことくなり
これをすなはちなつけてそ 香光荘厳とまふすなる