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鏡餅(かがみもち)

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鏡餅は古くは餅鏡(もちかがみ)と言い、正月や吉例の時の神仏へのお供え物で、円盤状のお餅を2枚から数枚重ねたものです。その起源は古く、平安時代に著された『源氏物語』にも、御所に仕える女房達が、年頭に長寿を祝う儀式に餅鏡を取り寄せたという記述があります。この鏡餅を、寺院でいつ頃から尊前にお供えするようになったのかは定かではありませんが、西本願寺では江戸時代に著された故実書(こじつしょ)に次のような記述があります。

正月は、阿弥陀様の尊前、親鸞聖人の尊前、その他ご歴代の尊前等すべての尊前に鏡餅をお供えします。鏡餅の枚数は、お寺によって違ってもかまいません。鏡餅の上には、橙(だいだい)を置きます。ゆずり葉(橙の上の葉)の枚数は阿弥陀様と親鸞聖人の尊前は三枚、ご歴代の尊前は二枚、その他の尊前は一枚です。

西本願寺ではこの形式を現在でも受け継いで、特に阿弥陀様や親鸞聖人の尊前には立派な五重(同形の5枚の餅を重ねる)の鏡餅がお供えされています。12月20日には、「お煤払(すすはらい)」といって、御影堂(ごえいどう)と阿弥陀堂の大掃除が行われます。この行事は、古くは室町時代の本願寺8代蓮如上人時代から伝わる儀式形式として現在も行われています。そして、24日にはお鏡餅がつかれ、31日の大晦日の朝のお勤めが終われば、そのお鏡餅が各尊前にお供えされます。こうして、西本願寺のお正月を迎える準備が整っていくのです。年末年始に、西本願寺へお参りされるご縁があればご参考にして下さい。

さて、お餅は保存食として大切な食べ物ですから、年頭に際してお供えすることは解ります。しかし、何故、鏡餅の上に橙を載せてお供えするのでしょうか。不思議に感じておられる方も多いことでしょう。この由来は諸説あるようですが、橙は冬に果実が実りますが、実ったまま置いておいても落ちずに枝に残り、これが繁栄が続くことを表していると言われているようです。でも、俗信・迷信を否定する浄土真宗の教えから言えば、違和感を感じる理由です。
繁栄が続くことを願う気持ちはよく分かりますが、絶対そうならないのが人間の世界でした。阿弥陀様に見守られながらその現実を直視し、栄枯盛衰の人生を阿弥陀様の願いを灯(ともしび)として乗り越えていく道をお示し下さったのが親鸞聖人でした。ですから、その阿弥陀様の何があっても苦悩の中にある私達を見捨てないという救いを、落ちない橙で表しているとも味わうことができます。

浄土真宗の儀礼は、純粋な浄土真宗の教えと俗信とを繋ぐ大きな役割を担っています。お正月に仏前に鏡餅をお供えされ、家族の繁栄を願って橙(ミカンではなく)をその上に載せられることは、阿弥陀様の教えに出遇う始まりだとも言えるでしょう。