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浄土に響く音楽

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『仏説無量寿経』には、阿弥陀如来の浄土に響く音楽の様子が細かく説かれています。
浄土には七宝(金・銀・瑠璃・玻璃・珊瑚・碼碯・硨磲)でできた樹々が並んでいます。ある樹は、紫金を根とし、白銀を幹とし、瑠璃を枝とし、水精を条(こえだ)とし、珊瑚を葉とし、碼碯を華とし、硨磲を実としていて、またある樹は、白銀を根とし、瑠璃を幹とし、水精を枝とし、珊瑚を条(こえだ)とし、碼碯を葉とし、硨磲を華とし、紫金を実としているなど、それらの七宝が種々に交わった樹々が整然と並んでいるのです。そしてその樹々の枝は四方に大きく広がり、二十万里にもなります。その枝と枝の間から至る処に宝の瓔珞が垂れていて、それらが百千万の光の色を変えながら輝いています。またその上を見てみますと、浄土の空には金糸や真珠など、様々な宝で飾られた網が覆いめぐらされていて、そこから宝の鈴が垂れています。これらの宝の飾りは、まばゆく光り輝き極まっているのです。

七宝樹林くにゝみつ 光耀たかひにかゝやけり
華菓枝葉またおなし 本願功徳聚を帰命せよ(親鸞聖人『浄土和讃』)

さて、光り輝く樹々や宝の網に清らかな風が吹いてきます。そうしますと、その風に揺られて宝の樹々や鈴から誠に妙なる五つの音声(おんじょう)が出てくるのです。この五つの音声とは、宮(きゅう)・商(しょう)・角(かく)・徴(ち)・羽(う)のことで、聲明(仏教の伝統的音楽)の音階をあらわし、その宝の樹々や鈴から出る微妙(みみょう)なる音は美しく調和し、音楽として浄土に響き渡っているのです。

宝林宝樹微妙音 自然清和の伎楽にて
哀婉雅亮すくれたり 清浄楽を帰命せよ(親鸞聖人『浄土和讃』)

ところで、宮・商・角・徴・羽の五つの音の中で、宮と商は相容れない音階なのです。つまり、宮と商の音を同時に出すと汚く濁った音、つまり不協和音になります。例えば、オルガンでドとレを同時に弾くと不快な音が出ます。このドとレの音階差が、聲明の宮と商の音階差に相当するのです。この宮と商の音は人間の世界では不協和音となってしまうのですが、浄土では清らかに調和しているのでした。そして、その音楽は阿弥陀仏の浄土だけではなく、諸仏の世界へも遍満(へんまん)して、それを聞く者は六根(眼,耳,鼻,舌,身,意)は清浄となり、みな悟りへと導かれるのです。

清風宝樹をふくときは いつゝの音声いたしつゝ
宮商和して自然なり 清浄勲を礼すへし (親鸞聖人『浄土和讃』)

このように浄土に響き渡る音楽は、世間の音楽はもとより、天の神々の音楽よりも千億倍もすぐれていて、清く冴えわたり、よく調和し、すべての世界の中でもっともすぐれていると説かれています。

中国の法照禅師(8世紀)は、三昧中にこの浄土に響く五つの音声を聞かれました。その五種の音声を基に、念仏に五種の旋律を着けられたのが、「五会念仏(ごえねんぶつ)」という音曲です。その音曲は様々な変遷を経て、1300年後の今本願寺に伝わっています。これからも、この浄土に響く音曲が末永く唱えられ続けることを願うばかりです。