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「ニョウ」と「ハチ」

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「ニョウ」・「ハチ」とは、法要に使用する楽器の一種です。「ニョウ」は銅鑼(どら)のことで、「ハチ」は洋楽器のシンバルに似た銅製の楽器で、共に宣徳色(深い茶系色)をしています。
「ハチ」は、中央アジアのベゼクリク千仏堂の壁画や、敦煌出土の浄土変相図、そしてわが国の当麻曼荼羅虚空絵などにも見ることができます。そこには、琴(こと)や鼓(つづみ)や「ハチ」が、飛天と共に空中に舞っている様が描かれています。また「ニョウ」は、元来は「ハチ」に似たものであったらしく、混同しながら伝わったようでありますが、いずれにしても、仏様を讃嘆し供養するための楽器でありました。

『仏説無量寿経 巻下』には、極楽浄土で阿弥陀如来を供養するものとして、「心の所念に随ひて、華香・伎楽(ぎがく)・ぞう蓋・幢幡(どうばん)、無数無量の供養の具、自然に化生して念に応じてすなはち至らん」と説かれています。この中「伎楽」とは音楽のことで、その音楽を奏でる楽器の一つである「ニョウ」・「ハチ」が阿弥陀仏を供養するため空中で響き渡っているのです。

中国仏教の歴史書である『大宋僧史略』(だいそう そうしりゃく)の「巻下 結社法集」の章には、「初集にニョウ、ハチを鳴らし唱仏歌讃し、衆人念仏行道す」とあり、法要の始めに「ニョウ」・「ハチ」を鳴らし、聲明を唱え、諸僧は仏様を念じて行道(仏さまの回りを巡る)すると記されています。

天台宗等の密教法要の最初、諸僧が堂前に立ち、そして入堂する際に「四智梵語讃(しちぼんごさん)」という音曲が唱えられます。「四智梵語讃」とは、仏様の四つの智慧(大円鏡智,平等性智,妙観察智,成所作智)をたたえた讃(梵語とはサンスクリッド語の音写)になだらかな節が付けられた音曲です。この讃を唱えながら諸僧は入堂し行道し、「ニョウ」・「ハチ」を打ちます。讃の途中で打つ場合や、讃が終わってから打つ場合があり、いずれも僧が「ニョウ」・「ハチ」を持って入堂し行道するのです。また、この讃は伝供(てんぐ)と言って、供物をお供えするときに唱えることもあります。いにしえの中国での仏教儀礼が、今日まで日本で伝承されていることに驚かされます。

さて、浄土真宗本願寺派大谷本廟の報恩講である龍谷会の始めには、「五眼讃」が唱えられます。この「五眼讃」は、『仏説無量寿経 巻下』に説かれる浄土の菩薩さまの眼の五つのお徳「肉眼清徹靡不分了 天眼通達無量無限 法眼観察究竟諸道 慧眼見真能度彼岸 仏眼具足覚了法性」(肉眼:現実の色形を見る眼。天眼:三世十方を見とおす眼。法眼:現象の差別を見分ける眼。慧眼:真理の平等を見ぬく眼。仏眼:前の四眼を具える仏の眼。)に、なだらかな節を付けた音曲です。その節は、上記の天台宗の「四智梵語讃」と同じものが採譜されました。
この讃が唱えられる中、御門主様を先頭に、列立した諸僧が祖壇(宗祖親鸞聖人の墓所)へ花や供物を供える伝供を行います。また「迦陵頻」という曲の雅楽が同時に演奏され、雅な雰囲気の中最後に「ニョウ」・「ハチ」が打たれるのです。ここにも、いにしえから続く仏さまや菩薩さまを音楽で供養してきた歴史を感じることができます。